契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

しかし、そのとき不意に、

『そこの家には男の子が一人おってんやんかぁ。
……あたしと、同い年の子ぉや』

と告げたときの姉の横顔が、栞の脳裏に甦ってきた。彼女の目は、西日が降り注ぐ縁側の奥の坪庭を抜けて、もっと遠くの「なにか」を見つめていた。

その瞬間、点と点だった「情報(データ)」が栞の脳内で神経伝達物質(シナプス)によってつながった。

……おねえちゃん、もしかして、あたしの「お兄さん」のこと、ずーっと忘れられへんかったんとちゃうやろか?

もし、そうであるならば……栞は決意した。

……神戸には行かれへんかったから、おねえちゃんらがおとうさんに報告しはるときには、あたしが味方して「援護射撃」できひんかったけど。

栞は、自分が悪いわけでもないのになんとなく後ろめたくて俯きがちだった顔を、すくっと上げた。

登茂子の鋭い切れ長の目と合った。
先刻(さっき)までの温かく見守るような目をした人とは別人かと見紛う、まるで雪女ように凍え切った目だった。

けれども、栞は(ひる)まず、しっかりとその目を見返した。

彼女が、栞の姉と「兄」の結婚に対して快く思っていないのは明らかだ。
GWに二人が会いに行ったときの「歓迎」されなかったであろう様子もありありと想像できる。


……おねえちゃんのために、ここであたしが「援護射撃」したるえっ!

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