契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
「えーっと、そういうのもまぁ……『天の采配』って申しますか……」
今さらながら、栞はあわてて言葉を選び始めた。
「ええわよ。むしろ、今になってそんな取ってつけたようなこと言われたら……余計に腹立つわ」
そして、登茂子はふーっと息を吐いて、
「……そうや、あんたの言うとおりや。
しかも……わたしが仕組んでやったことや。
そうでもしいひんかったら、洋史はいつまで経っても結婚なんかしやへんかったやろうからな」
……うっわー、ただのデキ婚やなくて、まさかの自ら仕込んだ「やらせデキ婚」やったかー。
でも……ということは……
「青山さんはそれほど、そいつと結婚したいって思ってたってことだよな?」
神宮寺がほそり、と言った。
「だが、男の立場からすると、いくら惚れた女であろうが、そんなことするヤツは腹立つ前にすっげぇ怖えぇよ。
それに、なんだか裏切られた気持ちになるな。
だから正直、おれだったら、その女のことはもう信頼できねぇよ。子どものためには仕方がないとはいえ……そんな女との婚姻届なんか出したかねえよ」
栞はそれを聞いて、びくり、と震え慄いた。
神宮寺から愛想を尽かされないためにも「やらせデキ婚」だけは絶対にするまい、と固く決意し、忘れないように心の中のノートに書きつけた。
……しかし、そんな経緯はカケラもないままに、すでに婚姻届は受理されているので、そのような心配はまったく無意味なのだが。