契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
「先週会うたときに稍ちゃんに聞いたけど……みどりは離婚したそうやね?」
登茂子の問いかけに、栞はこくりと肯いた。
「麻生の父の方が再婚することになりまして」
「へぇ……そうなんや……相手はどんな女?」
登茂子はフッチェンロイターのバロネスの白いカップを持ち上げ、すっかり覚め切ってしまったカフェオレを口に含んだ。
「三十歳以上も下の、あたしの小学校時代からの同級生で友だちです……すでにお腹の中には子どももいます」
次の瞬間、登茂子がカフェオレを、ぶはっ、と吹き出し、ローテーブルに飛び散らせた。
気管に入ったのか、激しく咳き込む。
「だ、大丈夫ですか?」
栞はあわてて、ティッシュボックスを引き寄せ、ティッシュを何枚か抜き取った。
必然的に恋人つなぎが解かれてしまったので、神宮寺が拗ねたような不機嫌な顔になる。
「は、はあぁ……っ⁉︎ さ、三十歳以上も下ぁ⁉︎
しかも……栞ちゃんの……友だち⁉︎」
登茂子はまだ少し咳込みながらも、栞から受け取ったティッシュでローテーブルを拭いた。
息が急いたあとの掠れた声になっていた。
「それって……麻生さん、犯罪とちゃうの……⁉︎」
「いえ、結花はもう二十七歳ですから……」
栞がそう答えると、登茂子は目をパチパチとさせた。
「えっ……相手は同級生って言うたよね?
ということは……栞ちゃんも、もう二十七なん?」
「あのとき」の栞はずり這いからよちよち歩きし始めた、まだ赤ちゃんだった。
「そっ……そうやわね……拓真さんの五歳上らしいし……智史なんか、今月で三十五になるんやから……」
知らず識らずのうちに過ぎ去っていた時間の長さに、登茂子は愕然とした。