契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
「……というわけで」
栞はいきなり話題を変えた。
「結婚指輪のセミオーダー、よろしくお願いします」
平然とそう言って、ぺこり、と頭を下げる。
登茂子が「……は?」という顔になった。
とっくに、本日の「商談」は諦めていたからだ。
でなければ、「上お得意様」に対してあんな失礼極まることは口が裂けても言えない。
「あたしは別にあなたが憎くて言うたんやなくて、あくまでも『姉の援護射撃』をしただけなんですよ。だって、これから姉はあなたの息子であるあたしの『お兄さん』と結婚するわけでしょう?
……うわぁ、改めて思うけど、あたしたちどこまでも複雑な関係になるなぁ」
栞はさもおかしそうに、くすくすと笑い出した。
「姉には『お兄さん』と結婚することで肩身の狭い思いだけはしてほしくないんです。
姉が快適に結婚生活を送れるためなら、手段は選びません。あたしがあなたに売れる恩やったら、喜んで売り飛ばします。
ほんで、『援護射撃』はこれでおしまいやなくて、これからもずっと続くんで」
空恐ろしいことを、こともなげにさらりと言う。
登茂子は、鼻筋がすっと通った栞の理知的な面立ちに、我が息子・智史の面影を見た。
やっぱり……この兄妹は似ている、とつくづく思った。
……たぶん、稍ちゃんのことを一心に思う気持ちも。