契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

「栞ちゃん……この際やから、あんたを育てはった麻生さんのために言うておくわ」

登茂子が栞をじっと見た。

「確かに栞ちゃんが言うように、裏切られたみどりに対する『意地』で、あんたらを引き取った部分もあったかもしれへんけど……」

栞も登茂子をじっと見返した。

「最後にわたしら親だけ四人が集まって、これからどうするか話し合ったそのときに、
『震災で(うしの)うた家の住宅ローンを払うためにでも働けるんは、稍と栞がおるからや』
『嫁が出て行ったうえに、子どもらまでおれへんようになったら、これから先なんのために働いてええのかわからへんようになる……頼むから、稍と栞は連れて行かんといてくれ』
って、麻生さんはみどりに言わはってんよ」

栞は目を見開いた。

「……おとうさんにとって、あたしは『実の子』やったんですか……?」

ぽろりと、言葉がまろび出た。

「それは……あんな形でお腹に宿ったあたしでも……生まれてきてよかったってことですか?」

登茂子は深く肯いた。

正直、プライドをずたずたにされてつらくて口惜しくてどうしようもなくて……みどりも栞も死ぬほど憎んで恨んで……智史がいないところで、目から血の涙が流れているのではないか、というほど泣き叫んだ日もあったというのに。

なんだか、そんな日の自分が遠くとおく感じた。

「それに……あんたの本当(ほんま)の『お父さん』もまた……たとえ一生『父親』と名乗れることはなかったとしても……栞ちゃんには絶対に生まれてきてほしいと望んだんやと思うわ」

登茂子には不思議と、洋史の気持ちが手に取るようにわかった。


……最後の最後になって、ね。

いや……きっと「最後」やからやわ。

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