契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
Last Chapter

✿訪問✿


それから一週間ほど経ったあと、華丸百貨店を経由して東京・銀座のJubilee(ジュビリー)本店にセミオーダーしていた神宮寺と栞の結婚指輪(ウェディングバンド)が、仕上がったという連絡が登茂子から来た。

だが、京都(といっても限りなく奈良だが)から動くわけにはいかないため、代わりに預かり受けたしのぶがログハウスまで持ってきてくれた。

「……絶対に外すんじゃねぇぞ」

そう言って、神宮寺は栞の左手薬指にピンクゴールドの平打ち指輪(リング)をぐいっ、とはめ込んだ。

「あ、残念だけど……それは無理ね」

しのぶがあっさりと言った。

「Jubileeからの伝言だけど、ピンクゴールドは金に銅・銀・パラジウムを配合してて化学反応を起こしやすいから、汗や化粧品や温泉などには気をつけてほしいんですって。ショップを通りかかったときにでもちょっと寄ってもらえれば、いつでも無料で超音波洗浄するので、メンテのためにもぜひ利用してほしい、とのことよ」

出端(でばな)を思いっきり挫かれた神宮寺が「ほらっ」とぞんざいに左手を差し出す。
栞はおずおずと、まったく同じデザインの指輪をその薬指にはめ込ませた。

「へぇ……ピンクゴールドのマリッジって、ありそうでないものね。デザインもシンプルな中にも洗練されてて素敵じゃない」

栞の左手薬指を凝視していたしのぶが「あぁ、そうそう……」と気づいて、

「これ……ジュエリーデザイナーの久城さんから預かった婚約指輪(エンゲージリング)のデザイン画よ」

ソファの前のローテーブルの上に置いた。

「おおっ!」と栞が身を乗り出す。

神宮寺が言い出したときは、正直「いらへんのにー」と思ったが、なにがなんでも買ってくれるというので、前向き(ポジティブ)に対応することとしたのだ。

「それと……こちらが弁護士の進藤先生に作成し直してもらった『婚姻契約書』ね。
光彩(ありさ)先生の渾身の出来らしいわよ?」

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