契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
「ち、違いますっ!」
栞は目の前で左手を振った。つい先刻はめてもらったピンクゴールドが、きらきらっと光った。
「せっかく作成してもらったので、もったいないから『記念』に取っておこうと思って。
……もちろん、サインはしませんよ?」
とたんに、神宮寺がほぉーっと脱力した。
互いの署名がなければ、それこそただの「紙切れ」だ。
「神宮寺先生、ずいぶんと振り回されちゃってますね……この『天然小悪魔』に」
「うるさい。どうせ、こいつは『ど天然記念物』だからな、かん……」
神宮寺は「神崎」と言いかけて、
「……佐久間」
と言い直した。
「……は?」
しのぶが目を見開く。
結婚しても旧姓で仕事をする女性が多くなってきた中、しのぶが「改姓」することを選んで五年近くなるが、神宮寺だけは頑なに「神崎」と呼んでいた。
「もし、栞が未だに『八木』って呼ばれたりしたら、おれはいい気はしないからな」
しのぶは、ふっ、と笑った。
「そう……やっと、オトナになったのね」
そして、五年ぶりに……けれども、たぶんもう二度と呼ぶことはないその名で呼んだ。
「……『拓真くん』」