契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
「ほらっ……二階へ行くぞ」
栞は神宮寺から包み込むように肩を回され、
……最早、これまでかっ⁉︎
無念の涙を流しかけたそのとき……
♪ ピンポーン とインターフォンが鳴った。
……助かった!もしかして、しのぶさんがまた来はったんかも。
栞はするりと神宮寺から抜け出し、インターフォンの受信機に駆け寄り、ボタンを押した。
『……先生、古湖社の池原です』
栞に逃げられ、それでなくても史上最悪の殺人鬼級に、なにをしでかすかわからない形相になっていた神宮寺は、
「放っておけ……絶対に無視しろ」
素っ気なく栞に指図した。
しかし、栞にとっては背に腹はかえられぬのだ。
なので、「はーい」と元気よく返事した。
『あ、栞さんですね……開けてもらっていいですか?』
「池原っ、なにが『栞さんですね?』だっ!
気安く名前で呼ぶんじゃねえっ!
八木……じゃなかった、本田って呼べっ!」
神宮寺が、モニターに映る池原に向かって怒鳴った。
『あ、先生、いらっしゃったんですね。ちょうどよかった……実は先生に……うわっ、ちょっと待ってくださいよぉっ⁉︎』
いきなり、がさがさっと雑音が入ってモニターには池原とは違う人物が映った。
「その人」はつばの広いキャペリンというデザインの白い帽子を被り、大きなオーバルのサングラスを掛けていた。
「うわぁ、なんだか女優さんみたいな女ですねぇ?」
栞が何気に「その人」の感想を述べた。
「『みたい』じゃない……女優だ」
神宮寺が地の底からか?と思うほど低い声で答えた。