契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
「……拓真、あなた、このお嬢さんと結婚したの?」
今日子はあからさまに不機嫌になった声で訊いた。
「あぁ、そうだ。GWが明けたつい先日、婚姻届を提出して栞は正式におれの妻となった」
神宮寺は淡々と「事実」を述べた。
「ねぇ、お嬢さん、拓真と同じ歳くらいだと思うけど、この人……かなりな歳上好みよ?」
今日子は挑発的な目で栞を見た。
「栞さんはかなり若く見えますが、実際は神宮寺先生より、五歳上です」
池原が「ご注進」申し上げる。
「そう……じゃあ、あなたも同じね」
今日子は満足げに微笑んだ。
「最初のスキャンダルこそ同年代だったけど、やっぱり『違った』みたいで、それ以降はわたしも含めてすべて歳上のオンナとばかりよ。
それは、みんな……十歳も上だった神崎さんの『身代わり』だったからよ。
拓真がいつでも本当に好きだったのは、彼女だけなのよ」
「……勝手なこと言うな」
神宮寺は険しい顔で今日子を睨んだ。
「栞、本気にするなよ。それは、こいつにとって都合のいい戯言だ。
……ったく、今さらなに言ってやがんだ。
おれたちが別れた理由は、スキャンダルが世間にバレそうになったからじゃねえ。
こいつが映画のプロデューサーに文字どおり『寝返った』からだ」
「……なんですって?」
それまで微笑んでいた今日子の美しい顔が、一瞬にして強張った。
「自分の不誠実さを棚に上げて、わたしのことを『売女』みたいに言わないでちょうだい。
あのときのわたしが……どれだけ拓真を好きだったか……いつも拓真と一緒にいて、二人三脚で作品を生み出していた神崎さんに……あのときのわたしがどれだけ嫉妬したか……あなたは……ほんとに、なにもわかっていなかったのね⁉︎」
今日子はみるみるうちに感極まって、目には涙が込み上がり、今にも溢れ出しそうだ。
すると、今まで黙って事態を見ているだけだった栞が、神宮寺のシャツの裾をくいくい、と引っ張った。今日の彼はディーゼルのシャツを羽織っていた。