契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
Epilogue
「……はい、青山です」
家電の子機を取った稍は応えた。
「あ……はい、そうです……栞は、あたしの妹ですけど……」
リビングにいた栞が姉を見た。
「えっ…文藝夏冬の佐久間さん?
……神宮寺先生と栞の居場所ですか?」
稍は目で合図を送り、声を高くした。
栞はぶんぶんぶん…と首を左右に振った。
「うちには来ていませんから、どこにいるのかは、ちょっとでもわかりかねますが……はい、わかりました……では」
稍はそう言って、ピッと【外線】のボタンを押して切った。
「……おねえちゃん、ごめーん」
栞が稍に向かって手を合わせる。
リビングのソファに座り、週刊文夏に連載中のコラムをモバイルPCで書いていた神宮寺も、ひょこっと頭を下げている。
「別にええけど。それにしても、うちの家電の番号まで調べはるやなんて、出版社ってすごいなぁ。今の女の人、えらいあわててはったえ。
居場所がわかったらすぐに連絡ほしいって、言うたはったけど。
……もうそろそろ、発表なんとちゃうん?」
今夜は、今年度下半期の茶川賞と植木賞が発表される日で、神宮寺の新作が植木賞にノミネートされているのだ。
ところが神宮寺が、出版関係者に押しかけられて一緒に発表を待つのはまっぴらだ、言い出した。
そして、栞を連れて前日までになんとか都内から脱出しようと試みたのだが、しのぶにしっかりマークされていた。なので、仕方なく稍たちが住む、有明テニスの森にあるタワーマンションに身を寄せているのだ。
だが、ここにまで「追手」の手は伸びていた。