契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

東京に戻った神宮寺が書き上げた小説は、今までの作風とはがらりと変わった「家族」をテーマにした小説だった。

【東京の郊外で暮らす、一見、何の変哲もないように見えるその家族は、実は法律上のつながりはあるものの、だれ一人として血のつながりがなかった……】

そんな家族の春夏秋冬を、神宮寺 タケル独特の透明感ある文体でみずみずしく描いたその本は、出版されるやいなやベストセラーとなり、テレビドラマ化され、来年のGWには映画が公開される。

間違いなく、神宮寺 タケルの新たな「代表作」になるだろう。


先刻(さっき)は古湖社の池原さんって人からも掛かってきたし。
出版社の人たち、血眼になって先生のこと探したはるのと違うん?……あああぁーーーっ!」

いきなり稍が素っ頓狂な声を張り上げた。

(さと)くんっ!……今、ななちゃんの口にチュウしようとしたやろっ⁉︎」

猛然とダッシュして、神宮寺の対面のソファで一人娘をあやしていた夫から我が子を奪取する。

「ななちゃんに虫歯菌が移ったらあかんから、絶対に口にはチュウしやんといて、ってあれだけ言うてるのにぃっ!」

完全に「母親」の顔となった稍は、すっかり鬼の形相になっていた。

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