契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
すると、初めて神宮寺が栞を見た。
ボストン型のバッファローホーンフレームの眼鏡を通して、アーモンド型のくっきり二重の瞳が、怪訝そうな色を醸し出す。
「……あんたが、その『オバサン』?」
……口が悪いのを除けば、童顔でかわいい感じの人やねんけどな。残念な人や。
栞は引き攣ってしまいそうになる顔をなんとか抑えた。
「言っても、大学出たばかりっつうことは、おれと同い年か」
少し癖のあるやわらかな黒髪を、神宮寺はぐしゃりと掻き上げた。
「い、いえっ、違います。院卒なので、二十七歳です」
栞は、すかさず「訂正」した。
「ええっ、あんた、その風貌でおれより五つも上かよ?」
神宮寺は仰け反った。
彼には、カジュアルな服装をしたポニーテールの栞が二十歳そこそこの学生に見えた。
……こっちこそ、五つも下のあなたには、言われたないねんけど。
「先生、八木さんは院卒と言っても、博士課程を修了えられてるんですよ」
そう言って、しのぶは栞が卒業した大学の名を挙げた。自分の夫の勤務先でもあるのだが。
「ええっ、旧帝大じゃん⁉︎
……なんで、家政婦なんかになるんだよ⁉︎」
神宮寺はさらに仰け反った。