契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

物心ついたときにはすでに母親がいなかった栞にとっては、歳の離れた姉の(やや)が「母」のようなものだった。

祖母では気の回らないところは、必ず稍がフォローしてくれていた。友人たちとどこかへ遊びに行きたい時期にも、栞のために極力いつも家にいてくれたように思う。

しかし、当然のことながら歳下の栞にその逆を務めることはできなかった。つまり、稍をフォローする人はだれもいなかったということだ。

稍だって……まだ「子ども」だったというのに。

よく姉妹にありがちな口ゲンカなんて、ほとんどしたことがなかった。けれどもそれは、お互いどこか顔色を伺いながら接していたということでもあるかもしれない。


稍は結花が卒業した地元の名門女子大ではなく、偏差値がほとんど変わらない近隣の県の女子大を卒業した。神戸がある県だった。
そして、卒業後は就職先を東京に定めた。

そのとき、栞は驚きはしたが、

……おねえちゃん、あたしに構わず、好きなことしてええねんえ。

とも思い、どこかホッとした気持ちになった。

だが、この六月に結婚することにはなっても、結局のところ三十五歳になるまで稍が独り身だったのは、やっぱり自分のせいでもあるのではないかと、栞は思わずにはいられなかった。

だから、稍には自分のせいで子ども時代に我慢させたぶん、しあわせになってほしかった。

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