契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
父親には京都の実家以外に神戸に家があった。
栞は物心つく前でまったく覚えてはいないが、母も一緒に家族でそこに住んでいたらしい。
だが、阪神大震災に遭って、その家は倒壊した。
今の家は、その後同じ土地に再建したものだ。
ところが、せっかく家を再建したにもかかわらず、今回京都を引き払って移ると言いだすまで、年に何度か訪れるくらいで相変わらず一家は京都に住んでいた。
今年の正月、稍が東京から「結婚相手」を連れて帰省する際、父親はなぜか『神戸の家で会う』と言った。
連れてこられた「相手」はそこそこのイケメンで、仕事は証券会社では花形の営業マンだそうだ。同期入社ということで長い間「ただの同僚」だったらしいが、相手の男が稍に夢中なのはだれの目から見ても明らかだ。
なのに、どう見ても稍からは結婚間際の人が放つ「幸せオーラ」がまったく感じられなかった。
(ちなみに、あのような結婚であっても、今の結花からはしっかりと感じられる)
……おねえちゃん、本当にこの人が好きなんやろうか?
もともと、物事にあまり執着するような性質ではなく、淡々とやり過ごす人ではあるが。
正直言って、栞には違和感しか感じられなかった。