契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

『栞……びっくりしやんといてや。
まだ、おとうさんは知らはらへんねけどな』

突然、稍の声が改まったような気がした。

『実は、おねえちゃんなぁ……婚約破棄してん。
ほんでな……今まで勤めてた会社も辞めてしもうてん』

……ええっ?

『六月に結婚するはずやった康平(こうへい)がなぁ……あたしと(おんな)し部署の後輩と浮気しとってんやんかぁ』

婚約者だった野田(のだ)は、大阪への出張に稍と同じ営業事務課で机を並べる後輩を連れて行ったのだそうだ。

どうしてそれが稍にバレたのか、栞が不思議に思っていると……なんと、出張先のホテルの客室で夜景をバックに、お互いバスローブを着て仲良くスパークリングワインで乾杯している姿を、当の後輩がインスタでフォロワーのみなさんに大公開したらしい。

結局、「加害者」である彼らは針の(むしろ)の中でも堂々と居座り、「被害者」である稍だけが会社を去り、今は派遣で文具販売のネット通販会社へ行って働いていると言う。

……そう言えば、結花もよう似たこと言うてたなぁ。会社っていうところでは、ようある話なんやろか?

「……おねえちゃん、(つら)かったなぁ」

栞はしみじみとつぶやいた。

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