契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
「……でもなぁ、おねえちゃん。
あの人やのうてよかったんとちゃう?」
栞ははんなりとそう言って、ふふっと笑った。
「あのとき、あの人見てて『なぁんか違うなぁ』って思ったもん。あの人におねえちゃんは、もったいなかったわぁ」
稍が婚約を破棄してくれたおかげで、やっと正月に野田と会ったときの「本音」が言えた。
『……それで、栞ちゃん、大丈夫なん?一人でちゃんとごはん食べてる?』
やっぱり「姉」は相変わらずだ、と栞は思った。
……こんなときに早速、あたしの心配なんかしてどうすんの?
「大丈夫。一人やないから」
東京で一人暮らしをする稍に、迷惑をかけるわけにはいかない。しかも、今までのように安定した会社での正社員ではないのだ。
「今なぁ、あたし、ある作家の先生のアシスタントみたいなことしてんねやんかぁ」
たとえ「家政婦」の仕事であっても、こうして神宮寺に拾われて雇ってもらえたのはラッキーだった。
「その先生との取り決めで、名前はちょっと言われへんねんけど……でも、大丈夫やから」
そう言って、栞はふふっ、と笑った。
「せやから、おねえちゃんは心配しやんといて」
『わかった……せやけど、なんかしんどいことあったら、絶対言うてくるんやで』
稍はやっぱり「母親」のように言った。
「うん、ありがとぉ。おねえちゃんも、慣れへん派遣はたいへんやろうけど、無理したらあかんえ」
たとえ「娘」のように頼りない妹でも、これだけは、しっかりと言っておきたかった。
そして、栞はLINE通話を切った。