契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
神宮寺が一階の風呂に入っている間に、栞は手早く部屋の掃除を済ませた。(もっとも、床掃除はルンバが張り切ってやってくれたのだが)
階下に降りていくと、神宮寺がバスタオルで髪をがしがし拭きながらリビングへやってきたところだった。
「……腹、減った」
時刻は夕飯を食べるには少し遅いかな、という頃合いだったが、それでも、いつもよりは随分と早い。十一時や十二時を過ぎることもあるのだ。
「すぐに用意しますから、ちょっと待っててください」
栞は冷蔵庫から取り出したジップロックのタッパーを、電子レンジに移動させながら言った。
昼間に「常備菜」として作っておいた「京のお晩菜」だ。
それから、シンクの下から出したフライパンに火をかけて油を引き、これまたあらかじめ下拵えしておいたハンバーグを置く。
ジュジュッと油が弾ける音がして、辺りに「肉」の香ばしい匂いが広がっていく。
……先生はまだ若いから、なにか「お肉」がないと機嫌が悪うならはるもんなぁ。
「胃がもたれて重たい」と言って、ハンバーグより焼き魚や煮付けの方を喜ぶ父親とは大違いだ、栞は思った。
……せやけど結花は、そんなおとうさんでもええんやろなぁ。
ふとリビングのL字型のソファセットを見ると、神宮寺はタブレットでなにかを見て大人しく待っているようだった。
そうしているとさすがに普段のふてぶてしい様子はまったく影を潜め、年相応の青年に見えた。
栞は、ふんわりと微笑んだ。