契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
そして、チーク材のダイニングテーブルに対面に座った神宮寺と栞は、今夜も黙々と夕飯を食べた。時間が合えば、こうして二人で食事をとる。
食べ終えたあと、神宮寺は必ず手を合わせて(口には出さないが)「ごちそうさま」をする。
食べる前の「いただきます」のときもそうだ。
シンクに持っていくためにお皿を重ねていた栞は、不思議に思っていた。
「先生、見かけによらず礼儀正しいところもあるんですね?」
「……『見かけによらず』ってなんだよ?」
食べ終えたとたんタブレットを再開させていた神宮寺が上目遣いで、ぎろり、と栞を睨む。
……あ、「心の声」が出てしもうたわ。
「そういうのには祖母ちゃんがうるさくてな。うちは両親が仕事で忙しくて、おれは祖母ちゃんに育てられたようなもんだから」
栞の目が見開かれる。
「へぇ、そうだったんですね。あたしもそうなんですよ。うちはあたしが物心ついたときにはもう母親がいなかったので、祖母と姉が『母代わり』でしたね」
すると、今度は神宮寺の目が見開かれる。
「……お母さん、そんなに早くに亡くなったのか?」
栞は静かに首を振った。
「いいえ、亡くなってはいません。
家を……出て行ったそうなんです。
あたしはあまりにも幼かったので、事情はよく知らないんですけれど」
それを聞いて、神宮寺にしてはめずらしく、気まずそうな顔をした。
「悪い……余計なこと訊いたな」
一応、世間一般の人々が所有する程度のデリカシーは持ち合わせていたらしい。