契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
「……君の力で記事を抑えられるのか?」
神宮寺が冷ややかに訊いた。
「私の力ではありません……先生のお力ですよ」
池原は口元を綻ばせて言った。だが、その目は厳しいままだ。
「君のところで『新作』を書け、ということか?」
神宮寺がうんざりした顔で唸った。
「コスパ度外視の文芸部がドル箱の週刊誌を黙らせるのには、なんといってもやはり、人気作家の先生の『版権』なんですよ」
池原が栞に向かって、説明するように言った。
出版不況の昨今、出せば必ずベストセラー作家の争奪戦はすさまじい。
神宮寺の場合、単行本と文庫本という「一次収益」からテレビドラマや映画などの「二次収益」までも見込めるのだ。
「それに、弊社の先生の担当編集者である私としても、やはりそろそろ作家・神宮寺 タケルの新しい『代表作』を送り出すお手伝いをしたいですしね」
どうやら、文藝夏冬の担当編集者・佐久間 しのぶが神宮寺を「囲って」新作を書かせているのも、すっかりお見通しのようだ。
「……それにしても、週刊誌が嗅ぎつけるのがえらく早くないか?」
神宮寺が鼻白む。栞がここに移り住んで一ヶ月も経っていないからだ。
「池原……君が週刊古湖にネタを売ったんだろ?」
「先生、我々には情報源の秘匿義務がございますので」
池原は悪びれずにしれっと答えた。