契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

「ところで……あなた、八木さん……八木 栞さんっておっしゃるんですよね?」

突然、池原が栞の名を口にした。
とたんに栞がびくっ、となった。まるで、小動物が毛を逆立てたような反応みたいだ。

「あぁ……お名前を確認させてもらっただけですよ?そんなに驚かなくても……」

池原がくくっ、と笑う。

名乗りもしないのに、見ず知らずの人から、いきなり名前を告げられる不快感が、この人にはわからないのだろうか、と栞は思わずにいられなかった。

「お顔を拝見して、お話を拝聴している限り、あまりそうは見えませんが……失礼ですけど、先生より歳上なんですよね?」

……失礼過ぎるわ。この人、こんな性格(ちゃ)うかったら、二十代後半のすらっと背の高い、結構イケメンやのに。

人間関係ではバランス感覚を重視するてんびん座の栞でも、思わずカッと頭に血が上りそうだ。

「おい、池原。なにが言いたい?」

さすがに神宮寺が色をなして、池原をグッと睨む。

「いや、すいません……先生の『歳上好み』は相変わらずだな、と思ったもので。でも、五歳違いだったら、どうってことないですよね?
……女優の八坂(やさか) 今日子(きょうこ)とは、確か九歳違ってましたっけ?」

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