契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
Chapter3
✿契約✿
『栞ちゃん、本当にいいのね?
……後悔しないわね?』
と、しのぶには何度も訊かれた。
しかし、栞はその都度『はい』と、しっかり首を縦に下ろした。
そもそも、自分が物心ついたときからもう二十年以上も別居しているにもかかわらず、ようやく去年離婚を遂げた両親を見て育ってきたのだ。
おかげで「結婚」に対する憧れも幻想も、栞には皆無だった。
それに、この歳まで男の人から見向きもされてこなかった魅力のない自分が、よもや結婚できるとは思わなかったから、一回くらい人並みに「体験」してみるのも悪くない。
栞はそう判断した。
ただ、この「契約結婚」を知られたら、父親にはどう思われてもいいが、姉の稍はきっと悲しむだろうから、それだけは心に引っかかった。
……おねえちゃんには、内緒にしとかなあかんなぁ。
『契約書はわたしが責任を持って、栞ちゃんが圧倒的に有利な条件で、知人の進藤 光彩っていう有能な女性弁護士に作成してもらうから、安心してちょうだい!』
『別に……女衒に売り飛ばされて、遊女屋にぶち込まれるわけじゃねえからさぁ』
神宮寺は心底呆れた顔でごちっていた。