契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
神宮寺としのぶが同時に栞を見た。
二人とも目を見開き、目の前でなにが起こったのか、とても信じられないという顔をしていた。
「栞ちゃん、あなた……知らなかったの?」
震えるしのぶの声をかき消すように、神宮寺が大きく息を吐いたあと、言った。
「……ふつう、婚姻届には『戸籍名』を書くんじゃないのか?」
超絶に不機嫌な声だった。
「ええっ⁉︎ 『神宮寺 タケル』って……ペンネームやったんっ⁉︎」
栞はムンクの顔になっていた。
「うっわーっ、なんかショック〜ぅ!
『神宮寺 栞』って名前になるの、ちょっとカッコいいかも〜!って、密かに思うてたのにっ!」
すっかり心の声がダダ漏れしていた。
「……っていうことは……あたしはこれから、『本田 栞』っていう、わりと普通の名前になるんやっ⁉︎」
「悪かったな……ちっともカッコ良くない『わりと普通の名前』で」
神宮寺は超絶をさらに超えた、史上最低最悪の不機嫌さを全開にしていた。
「つべこべ言わずに……早く書けっ!」
ノベルティの「古湖文庫 秋の百冊」ボールペンが飛んできた。
栞はひいいぃ…っという世にも哀れな悲鳴をあげながらそれをキャッチし、もしかしたら一生にたった一度かもしれない婚姻届の署名をすることとなった。