契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
✿共寝✿
すでにそれぞれ風呂も済ませて、あとは就寝するばかりだ。
神宮寺の宣言どおり、栞は彼が仕事部屋にしている書斎の奥にある主寝室に引っ張り込まれていた。
仄暗いオレンジ色のフロアライトだけに留められた照明の下では、否が応でもムーディな雰囲気を醸し出している。
……ここには掃除するために入って、いつもベッドメイキングもしてるけど。
だが、その「掃除」という言葉でふと「やっておかなければならないこと」を思い出した。
「あ、ちょっとすいません」
栞は備え付けのクローゼットを開けてバスタオルを取り出した。そして、ベッドに掛けられたブランケットを捲って、シーツの上にそれを広げる。
……「初めて」って、どのくらいの血が出るんやろ?
ともあれ、生理中に粗相したときのように、ぺったりと血が付着したシーツを洗うのは厄介だ。
仕事とはいえ、家事にかける労力はなるべく軽減させたい。この家のハウスキーパーとして、洗濯するのは栞なのだ。
それは、神宮寺と「婚姻契約」を交わしたとしても変わらない。契約書にはハウスキーパーとしての対価である「給与」や寸志程度の「賞与」、そして神宮寺の会社の従業員としての「社会保険」も、継続して保障されるとの記載があった。
「……へぇ、『ありえねぇ』って顔してたわりには、すっかりヤる気じゃん。いくらなんでも『初日』からはかわいそうだから、慣らす程度にしておいてやろうと思ったんだけどな」
栞は首だけ振り返って、神宮寺を見た。
……なんやぁ、一応、そういう「配慮」をしてくれはるつもりやったんや。
確かに「引っ張り込んだ」のは神宮寺かもしれないが、逃げようと思えば逃げられた。
なのに……栞は「引っ張り込まれていた」。
「でも……先延ばししても結局のところヤるんだから、別に『遠慮』することもないか」
神宮寺はそう言うと、後ろから覆いかぶさり栞をベッドに沈めた。