契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

……契約書に盛り込んでまで「守ろう」としてくれはった、しのぶさんには申し訳ないけど、もしかしてこういうのも「自然の流れ」っていうのとちゃうんやろか?

ぎしっと軋むマットのスプリングの音とともに、のしかかってくる神宮寺を迎えながら、栞はそう思った。

そもそも、栞には二十七歳の今まで特に身持ちを固くしていたつもりもなかった。

両親のことがあって、結婚というものに現実味を感じたことはなかったけれど、しかるべき彼氏ができれば、それこそ「自然の流れ」で身体(からだ)を許すことにやぶさかではなかったし、またそうなるものだろうと思ってきた。

にもかかわらず、だれからも手を出されずここまで来た、というそれだけのことだ。

そうなるとこの時代、今度は逆にこの歳になってまで「保ち続けている」ことが、知らず識らずのうちに、なかなかのプレッシャーになってくるのだ。男の人から見ると、ますます手が出しにくい「重い」存在になっているように思う。

そんな中、やっと奪ってくれるという「奇特な相手」が現れたのだ。
それも、ちょっとやそっとではお近づきになれないイケメンのベストセラー作家である。
当然、今まで浮名を流してきたのは女優やモデルなどのセレブリティな女性ばかりだ。

そんな雲の上の(ひと)と思いがけず入籍することになって(「契約結婚」ではあるが)、しかも、向こうから寝室(ベッドルーム)に誘われたのだ。(「禁断症状」を起こしているのに手近にオンナがいないからだが)

栞よりずっと若くてもセックスに手慣れた神宮寺であれば、きっとこともなげに破瓜(はか)を済ませてくれるに違いない。


それに……

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