契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
✿告解✿
神宮寺は別に「この世には『生まれてきたらあかんかった子』なんていない」というキレイゴトを並べる気はなかった。
だが、涙を浮かべるでもなく淡々と話す栞を見ていると、なんとも言えない気持ちになる。
だから、行為のあと、またGUのルームウェアを身につけていた栞の肩をぐい、っと抱き寄せた。
「たっくん……あたしの母は……」
アメリカンイーグルのスウェットを着た神宮寺の胸に頬を寄せながらも、栞はやはり淡々と、まるで問わず語りのように話を続けた。
栞がまだ物心つく前に、母親は家族で住んでいた家から出て行った。
「……と言うても、阪神・淡路の震災に遭うて、家は跡形もなく倒壊したそうですけど。
あたしは赤ちゃんやったんで、九死に一生を得たことをまったく覚えてませんけどね」
神宮寺にとっては生まれる前の出来事で、自分にとっての「震災」は東日本大震災だから、阪神大震災に関しては感覚的には「歴史」になっていた。
つい先刻まで思うままに抱いていた目の前の相手が、まさかそんな過酷な状況下で生き延びていたとは、思いもよらなかった。
神宮寺の栞を抱き寄せた手に力が篭った。
とにかく……栞が生きててくれていてよかった、と素直に思えた。