契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
「……なに言ってんだ?」
神宮寺は大きな手のひらで、俯く栞の頬をすっぽりと包んで、くいっと上げた。
「周りのヤツらが栞をどんなふうに思ってんのかは、おれは知らねぇけどな」
神宮寺には、これだけは言えた。
「おれは……すっげぇ扱いにくい人間なんだ」
栞が明らかに、なにを今さら……という顔をした。その表情を見て、神宮寺はちょっとムッとしたが、今はそんなことはどうでもいい。
「本来のおれなら、プロじゃないそこらへんの女がつくった料理なんて気持ち悪くて食わねぇし、いくら家政婦つったって大事な仕事部屋なんかに入れさせやしねぇよ。実際、池原は担当編集者なのにリビングで話してただろ?
なのに、栞にはデスクの上まで触らせてるんだぜ?……そんなこと、神崎にさえさせてない」
……だけど、それがなんだというのだろう?
栞は話が掴めなくて、首を傾げた。
神宮寺は作家なのに、あまりにも唐突で脈略がない。
「つまりっ……」
神宮寺はいつもの不機嫌な顔になった。
いや……拗ねているのだろうか?
「少なくとも、おれは……おれだけは、栞のせいで『不幸な思い』もしてないし、『悲しくて寂しい思い』もしてねえってことだよっ!」