初恋の桜
2.
高校生初日から遅刻しそうになった俺は、その日も自転車を猛スピードでこいでいた。
誰もいない桜並木の坂を駆け上っていけば、ゆっくりと歩くピンク色のカーディガンを着た小さな背中が視界に入った。
…背丈的に、俺と同じ1年生だろうか。
"それじゃあこの人も遅刻じゃないか"と思い、
「おい、走んねぇと遅れんぞ!!」
とその背中に叫んだ。
するとふわりと髪をなびかせながら振り返った小さな背中。
瞬間、俺は息をすることを忘れた。
大きくて吸い込まれるような茶色い目。
透き通る白い肌に桜色の頬。
それは、今までに見た事のないほどの『美少女』だった。
彼女は一瞬驚いたような顔をした後、うつむいて言った。
「しっ心配して下さってありがとうございますっ! でも、大丈夫なので。」
ぺこりと頭を下げて、今度は少し急いで歩いていく。
あ、今ちょっとつまずいた。
俺はその背中を見つめてクスッと笑い、無意識に呟いていた。
「桜…」