初恋の桜
4.
授業が終わり、休み時間。
例の告白のせいで授業に遅れた俺は、化学担当の吉田 茂男(独身・54歳)にネチネチとお説教を貰った上に遅れた理由を知られて授業中何度も当てられた。
お陰で元々寝不足なのにさらに疲れた。
…少し寝よう。
「あ、そういえば陽太。」
突っ伏して寝ようとすると、塁に声をかけられた。
「なんだよ?」
睡眠の邪魔をされ、少し不機嫌になりながら返事をすれば、塁は苦笑いをしながら続けた。
「2年にめっちゃ美人いんの、知ってる? さっき隣のクラスのやつらが騒いでたんだけど。」
「知らねぇ。 興味ねぇ。」
「バッサリだな…笑」
「じゃあ、その人と一緒にいる、めっちゃ美少女は知ってる?」
『美少女』 という言葉に一瞬で目が覚める。
「…美少女?」
あくまで興味無さそうに聞き返す。 が、塁は俺が一目惚れの相手を探しているのを知っているため、ニヤニヤしている。
「ああ。 夕暮 桜先輩っていうらしいんだけど。」
『桜』 ?
俺は "彼女" の名前を知らない。
けれど入学式のあの瞬間から、 "彼女" の名前は 『桜』 なんじゃないかと思っていた。
『美少女』 で 『桜』 。
それはもう、 "彼女" しかいない。
2年生だったのか。 そりゃあ見つからない訳だ。
「何組だよ?」
素っ気なく聞けば、塁はニヤリとして答えた。
「6組。」
「…昼休み、付き合え。」
相変わらず素っ気なくそう言った俺に塁はやっぱりニヤニヤしながら答えた。
「今度、学食奢りな。」