初恋の桜


昼休み。



相変わらずニヤニヤ顔の塁にムカつきながら2年6組へ向かった。



少し2年6組の教室を覗いてみれば、



………いた。



俺がずっと探していた、"彼女" 。



「あ、あの人? 確かに物凄い美少女だな。」



と、やはりニヤニヤ顔の塁。 だけどさっきと違って全くムカつかなかった。



「声かけてこいよ。」



完全に楽しんでいる様子の塁はそう言ったけど、俺はそれどころじゃなかった。














ドクドクとなる心臓。



どんどん熱くなってくる顔。



…ああ、やっぱり好きだ。



これ以上ここに居たらもうおかしくなりそうなほどに。



まさか『一目惚れ』を信じてこなかった俺が、一目惚れの相手にこんな馬鹿みたいに恋をするとは思わなかった。












「…戻ろうぜ。」



くるりと後ろを向き、ほぼ独り言のように塁にそう告げた。



「あっああ。」



塁も俺がここまで重症だとは思っていなかったらしく、唖然とした顔で俺に付いてきた。



自分の教室へ戻ろうと足を進めたとき、


















「あのっ…」












小さく、小さく聞こえた声。



それは間違いなく "彼女" のもので。



反射的に振り向いてみれば、また聞こえた小さな声。




「お名前を、教えてくださいませんかっ?」




うつむいていて表情は分からないものの、彼女は耳まで真っ赤だった。



「えっ?」



驚いて、声を上げる。 もしかしたら俺じゃないかもとも思い、キョロキョロと周りを見てみるけど、視線は確かに俺に向いていた。



「あっえっと、あっ朝霧、陽太、です。」



やっと絞り出した声はカミカミで。



マジでダサすぎだ。



「あっ 私は、夕暮 桜ですっ」



一生懸命に名乗った彼女はもう涙目だった。




「じゃっ じゃあ!」



逃げるようにして教室へパタパタと駆けて行った "彼女" ……桜先輩。



駆け寄ってきた友達に頭を撫でられている先輩の姿をぼけーっと見ていると、



「……た! …うた! 陽太!!」



塁の声にハッとする。




「脈アリ、じゃね?」



視界に入ったのは、今日何度目か分からない塁のニヤニヤ顔。



「かも、な。」



なんて答えるが、まだ期待してはいけない。



もしかしたらただ入学式に1年だと間違えた失礼なヤローが誰だか知りたかっただけかもしんねぇし。






とりあえず、ずっと探していた"彼女"をやっと見つけて分かったのは、桜先輩はやっぱり何もかも可愛すぎるということだ。

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