夢の続きを
「……ふ」
続いて静寂を破ったのは、私の笑い声。頑張って抑えても駄目だ。肩が震えて息が漏れてしまう。
「なに笑ってんだよ」
横目で海翔を見ると、不機嫌そうに私を睨んでいる。
「だって、海翔がフツウの人みたいだから可笑しくて」
「はあ? フツウの人だろ」
「……そうだね」
相づちは打ったけれど、決して肯定の意味ではない。
私は前を向いた。
白くて眩しい無人のスケートリンクを見ていると、今までの十二年が思い出される。長かったのか短かったのか、私にはよく分からない。〝気が付いたら〟という表現がぴったりだなとは思う。
何の取り柄も無い私が、今も変わらずこうして海翔の近くにいられることが不思議だ。
何かのインタビュー記事で、『小さい頃からスケートに打ち込みすぎて、恋人はおろか、友達も少ない』と言っていた海翔。
共有する思い出が人より多い私は、ちょうどいい話し相手だったのかもしれない。
子どもの頃はそれでよかった。
しかし、大人になれば自分の世界が広くなる。出会う人数も学生の頃とは比べものにならないほど跳ね上がった。
今ではこうして、必死に時間を作らなければ海翔には会えない。
隠し続けてきた思いは既に限界に近かった。
高校の頃海翔にあんなことを言われ、私たちの関係は常に友情でなければならなかったからだ。
勘違いされるから離れようとする私を、いつも海翔は引き留めた。
やれ『客観的なアドバイスが欲しい』だの『身体の軸がブレてないか見て欲しい』だの。求められると嬉しくて、私も一生懸命だったけれど。
先ほどの練習を見ていても分かる。
海翔には、私の助言なんてとっくに必要なかったのだ。
ーー来季のオリンピック、私は一体どこにいるのだろう。
縁起でもないから、ため息は吐けなかった。