夢の続きを
「ーー約束、覚えてる?」
不意に無機質な声が届いた。他に話し声があったら聞こえなかったかもしれないくらいの、小さな声。
弾かれたように横を向くと、同じように海翔も私を見ていてーー私たちは、席をひとつ挟んだ微妙な距離で見つめ合う形になった。
約束。
海翔と交わした約束と思しきものは、ひとつしか思い当たらない。そもそもあれは、本当に約束だったのか。何度思い返しても子どものかわいい思い付きだったような気さえする。
「オリンピックへ行こう、ってやつ? 海翔は行けるよ、大丈夫」
急に昔のことを思い出すなんて、いつもと違う大会を前に緊張しているのかもしれない。ゲン担ぎのつもりで、私は明るく言った。
それなのに海翔は、一転してムッとした表情になる。
「……違う。〝一緒に〟オリンピックへ行こう、だ」
「今更何言って……私はもうスケートやってないし、そもそも上手くなかったじゃない」
ここで小さい頃の思い出を持ち出されても困る。スケート教室を辞めてからはスケートとは縁遠い人生だ。リンクに通い詰めているとはいえ、私自身が滑っている訳ではない。
「確かに下手だった」
「ぶっ……そんなにハッキリ言わなくても」
神妙に頷かれてしまい、何とも言えない気持ちになる。下手なりに頑張っていたつもりだったのに。
うなだれる私とは対照的に、海翔は何かを思い出しているように口元を綻ばせた。
「でも、サルコウジャンプを練習しているとき、一生懸命内股になっていて可愛かった」
「ええ?! そんなことあったっけ……」
〝可愛い〟だなんて言葉は、今の今まで海翔の口から出たことが無かったため、私の頭は突然パニックになった。
ーーこんなことを海翔が言うはずがない。
ーー平気そうに見えて、実はものすごく疲れているのかも。
よぎる心配と素直な恥ずかしさで胸が苦しくなり、口を開いては閉じてを繰り返す。体中の温度が上がってしまい、上着を脱いで肌寒かったはずがかえって暑いくらいだ。