夢の続きを
「足、痛い?」
「えっ、えっ、あの……」
真っ黒でガラスのように透き通った瞳に見つめられ、うまく言葉を繋げられない。これまで挨拶したことすらなかった人に急に話しかけられたことで、完全に気が動転していた。
「この前も、ここで足痛いって泣いてたよね」
「泣いてなんか……!」
前回も見られていたことよりも、誇張した言い方にムカっとした。言い返そうと思わずお腹に力を入れた一瞬のうち、その子が視界から消える。
ーーあれっ、一体どこへ……?
キュ、キュ。
足元から聞こえてくるその音につられて下を向くと、黒い瞳のその子が私のスケート靴の靴紐を結び直していた。一見跪いているように見えるその体勢に、私は大慌てだ。
「ちょっと、何して……」
「緩いんじゃない? 靴紐は結び方を間違えるとケガしやすいから気を付けて」
「……ありがと」
言い方はキツかったけれど、意外にいい人かも。その子の頭のてっぺんを見下ろしたまま、そんなことを考えていた。
「できた。立ってみて」
立ち上がって二、三歩歩く。するとどうだろう、スケート靴が足に吸い付くように馴染んで痛みを感じない。
「すごい……痛くない!」
「良かった。次の練習の時、おすすめの中敷き持ってくるから試してみて。結構ラクになるよ」
その子の言動は、スケートを辞めたいと思い始めた私の気持ちを、いつの間にか掻き消していた。