夢の続きを
十六歳
高校生になる頃には、海翔はその世界でちょっとした有名人になっていた。
クラブに所属し級も上がっていくと、より沢山の大会に出場出来るようになる。中には有名な大会もあり、観戦している目の肥えた観客に評価されることも多い。
スケート教室ではそれなりに上手でも、クラブの中では簡単にはいかない。努力だけでなく天性の才能に恵まれた優秀なスケーターなど、ごまんといるものだ。
しかし、それがどうやら海翔には良い影響を与えたらしい。他の上手な選手たちに感化されたようで、元々熱心だった彼は以前にも増して練習の虫となった。
そしてその努力が実を結び、少しずつ表彰台に上がれるようになっていた海翔は、先日のジュニア大会でついに初の優勝を飾ったのだ。そのことが新聞記事になったことで、専門雑誌の取材を受けることが増えた。
海翔には言えないが、私の部屋の本棚にはこっそり買い揃えた雑誌や記事のスクラップのコレクションコーナーがある。
そう。あの淡い気持ちを伝えることもできなかった臆病な私は、情けないことに初恋をこじらせてしまっていた。
(今日も来てしまった……)
足繁く通うコンクリートの巨大な建物にもすっかり慣れ、私は観客席へと向かう。
毎回〝今回で終わりにしよう〟と意気込んでいるはずなのに、結局またこうして会場へ足を運んでしまう。
フィギュアスケート選手への道は早々に諦めた私だったが、どうしても海翔の応援は諦められなかった。〝昔のスケート仲間〟という恩恵にあずかり、試合後は堂々と彼と話をすることもできるから。ある意味、歩くバックステージパスのようなものかもしれない。
気の置けない特別な関係に、迷惑かもしれないと思いつつも、私はすっかり酔いしれていた。
今日の大会は規模が大きい。国内のジュニア資格を持っている選手の中でも有力な選手だけが集まるような、注目の大会だ。このような場面で表彰台に乗ることができれば、一気にシニア大会参加へと近付くことだろう。結果次第では、海翔は更に雲の上の人となってしまうかもしれない。
それはとても喜ばしいことだというのに、私の胸はちくんと痛んだ。