星をつかまえて……。
「留美!」

 ただ、ひたすら走った。

 いつも通い慣れた病院までの道程が、やけに遠く感じていた。


 病院に飛び込み、看護師の注意する声も無視して、僕は病室へと走っていた。

 病室のドアには、『面会謝絶』のプレート。

 ドアを開け、僕の目に飛び込んで来たのは、妙に静かな光景だった。


「……留美」

 返事はない。僕の声だけが響く。

 周りには留美の担当医や看護師達――それに両親もいるのに。

 誰一人、口を開こうとはしない。皆、口を真一文字に結び、身体を震わしているばかり。


「……ご臨終です」


 腕時計を見ながら先生の無慈悲で無感情な声が聞こえた。

 なんて言った? 今……先生は、なんて言ったんだよ。

「留美……嘘だろ」

 返事してよ……留美。お願いだから、声を聞かせてよ。

「る……み? ……なあ、るみっ」

 名前を呼んでも、何も返ってこない。いつもの「お兄ちゃん」って声すら返ってこない。

「声を聞かせてよ。なあ、留美……嘘だよね? もう起きていいよ。お兄ちゃんを騙すのはよくないぞ、ほら。目を開けて」

 だけど、留美からは返事はない。

 母さんの堪えきれない嗚咽が室内に響き、父さんの手が僕の肩に置かれた。

 嘘だ……嘘だよ。僕は認めない。こんな事、絶対に――
「るみぃー!」
 涙が自然と溢れてくる。認めたくないのに、どこかで認めている。

 一粒、一粒、星の煌きの如く流れ落ちていく涙。

 僕の声は、ただ虚しく室内に木霊していた。
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