獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
「これが、息子のカイルだ。存じておるな?」


手短な王の紹介にも、鎧兜の王太子は会釈もせずにじっと前を見据えている。


「はい、存じております」


「そなたの処遇は、彼に任せておる。婚約者として、精一杯勤め上げよ」


王の口調は、投げやりだった。隣にいる王太子に視線を投げかけようともしない淡白さからも、諦めのようなものを感じる。


「はい、承知いたしました」


「困ったことがあったら、このレイモンドに相談しろ。彼は王宮付きの司祭で、王宮内のことはほぼ任せておる」


王の言葉に、左隣に立っていた司祭が恭しく頭を下げた。アメリに向けられた微笑は穏やかで、鉄兜の異様な王太子を前に委縮していたアメリの気持ちが、少し軽くなる。


つられて、アメリも表情を崩した。






その時、おもむろに鎧兜の王太子が立ち上がった。そして無言のまま近づくと、アメリの目前でしゃがみ込む。


不気味な光沢を放つ鎧兜は、頭から顔を全て覆っていた。目の上方あたりに隙間があるので向こうからは見えているようではあるが、アメリからはまったく見えない。


まるで銀色頭の化け物に見つめられているようで、怖さのあまりアメリの心臓は鼓動を早めた。


しばらくの間、鎧兜の王太子はじっとアメリを見つめていた。だがふと手を伸ばし、肩下に垂れたアメリの髪に触れた。艶やかな黒髪が、サラリと王太子の指を流れていく。


「気に食わないな」


鎧兜の向こうから、ボソッと声がした。若い男の声だった。


驚いたアメリが目を見開くと、クス、と鎧兜の向こうで不敵な笑みを浮かべる気配がした。


カイルはそこで立ち上がると、挨拶もなしにさっさと王の間を出て行った。


乱雑に扉が閉められると同時に、玉座で王が深いため息をつく。


「まあ、どうにか頑張ってくれ」


まるで他人事のように告げると、王は追い払うようにアメリとヴァンを退席させたのだった。
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