獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
カイルの手を引くと、アメリはシルビエ大聖堂へと導いた。


カイルは束の間拒んだものの、アメリがぎゅっと彼の手を握れば抵抗しなくなった。きっと、アメリの強い意志を汲み取ったのだろう。


カイルから手を離さないままに、大聖堂の中へと入って行く。


礼拝堂は、進むのさえ困難なほどに真っ暗だった。


けれどもアメリとカイルが奥へと歩むにつれ、拝殿の向こうにキラキラと宝石のような輝きが現れる。


拝殿の手前で立ち止まると、アメリは昼間に取り付けたばかりのステンドグラスを見上げた。


(金糸雀色の光……。ああ、奇跡だわ……)






月の光がステンドグラスに重なり、宝石の粒のような金糸雀色の光を床に落としている。


ステンドグラスに描く獅子のためにアメリが調合した染料は、金色だった。金糸雀色の調合は、アメリの技量では困難だからだ。


けれども、月の光と重なることによって金色は金糸雀色に姿を変えていた。


ちょうど月の位置がステンドグラスに重なったことによって出来る奇跡だ。







(きっと、この方をここに連れて来たからだわ)


隣で、アメリを見つめているカイルに視線を注ぐ。


月も、闇も、風も、雲も。地上をさ迷う人間は知らなくても、森羅万象は知っているのだ。


そして、静かに称えているのだろう。


”最後の希望”である、この国の尊い王太子の存在を。


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