獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
――バシッ!


鈍い音がして、アメリはハッとした。鎧兜の偽物が、泣きじゃくる六歳くらいの少年の頬を手ではたいたのだ。


真っ赤に腫れた頬を手でおさえると、少年は火がついたようにより一層大声で泣き喚いた。


「今日のところはこれで許してやる。今度同じことをしたら、首をはねるからな」


人を小馬鹿にするような低い声が、鎧兜の向こうから聞こえた。


父親は嗚咽を漏らす息子を掻き抱き、悔しそうに震えながら鎧兜の男を睨んでいる。


「あれはひどい。噂通りの悪魔だ」
「最低の人でなしだな。あんな男が王位を継ぐと思うと、ぞっとする」


嫌悪感丸出しのカイルへの非難の声が、あちらこちらで上がる。






(違う、違うわ……!)


カイルは、確かに横暴だ。訓練中に騎士達に厳しくしたり、従者に冷たく当たったりする姿を何度も見たことがある。


だが、彼は子供には決して手を上げなかった。大人に手を上げる時だって、度は超えているかもしれないが判然たる理由があった。弱き者に対しての理不尽な暴力は、絶対に振るわない。


(噂の原因は、あの偽物だったのね……)


あの鎧兜の偽物は、カイルが常日頃から鎧兜を被っているのを利用して、こうやって町で悪行を繰り返してきたのだろう。


悔しくて、アメリはどうにかなりそうだった。
< 105 / 197 >

この作品をシェア

pagetop