獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
(なぜあの男がここにいる?)


胸騒ぎを覚えたカイルは、謁見中にも関わらず立ち上がり戸口へと歩み寄る。


扉を開ければ、衛兵と揉み合っているヴァンが目の前にいた。ヴァンはカイルを見定めるなり、食らいつくようにカイルの胸倉を掴む。


「アメリ様を、どこに連れて行った!?」


いつも落ち着いている男の必死の形相を目の当たりにして、カイルの心臓が不穏な鼓動を鳴らした。


「……何を言っている」


「しらばっくれるな! 悪獅子がアメリ様を殴りつけ、馬に乗せて連れて行ったと皆が言っているんだ!」


「殴りつけ……?」


不穏な鼓動を続ける心臓に呼応するように、声が震えた。判断力の早いカイルの頭は、すぐにこの不可解な状況を理解する。


カイルはアメリを連行してなどいない。だからそれは嘘だ。だが、多くの目撃者がいる。それはつまり、カイルのフリをした偽物がいたということだ。その偽物がアメリを殴り、どこかに連れ去った。


体中の血が、一気に熱を持って煮えたぎるのを感じた。


怒りのあまり、細胞の全てが殺気立つ。





カイルは、力の限りヴァンの胸倉を掴み引き寄せる。


あまりの勢いに屈強なヴァンの体がぐらりと傾き、その反動でカイルの胸もとを掴んでいた手が解けた。


「――どこだ」


獣の唸りのような、低く殺伐とした声だった。


「彼女は、どこで俺に連れ去られたと聞いた?」
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