獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
殺人すら起こしかねないカイルの剣幕に、動転していたヴァンは我に返ったように目を瞠った。
目前で、ブラウンの瞳が揺らぐ。
「もしかして、あなたじゃないのか……?」
やはりこの男は、勘が鋭く侮れない。アメリに最も近しい存在であるこの男に、幾度嫉妬したことだろう。
だが今、カイルはそれどころではかった。ヴァンの胸倉をより強く掴み、怒り狂う獣のごとく尖らせた瞳でヴァンを睨む。
「答えろ!」
「……リエーヌの商業通りの中ほどです」
返事を聞くなり、カイルはヴァンの胸倉から手を離した。勢い余って、ヴァンの体はバランスを崩し床に倒れ込みそうになる。
「ヴァンさんっ、大丈夫ですかっ!?」
騒ぎを聞きつけここまで駆け付けた騎士達が、慌ててヴァンの体を背後から支えた。
(彼女を傷つける者は、一人残らず殺してやる)
怒りで、この身が引き裂かれそうだ。
爪先が皮膚に食い込むほど拳を握り締めると、カイルはアメリを求めてその場を駆け出した。
「俺も行く!」
背後から、カイルを追うヴァンの声がする。
「――お待ちくださいっ!」
すると、廊下を駆けるカイルの前に立ちはだかる者がいた。
聖職者の黒衣を身に付け、胸もとにロザリオを光らせたレイモンド司祭だ。
いつになく真剣な眼差しでカイルを睨むと、レイモンド司祭はぞっとするほどに落ち着いた声で問いかけた。
「どこに行かれるのですか?」
「どけろ。お前には関係ない」
「また、リエーヌの町で暴れるおつもりなのですか? おやめなさい。無差別に人を傷つけ、これ以上国王の評価を下げてはなりません。戦争前の、大事な時期だというのに」
目前で、ブラウンの瞳が揺らぐ。
「もしかして、あなたじゃないのか……?」
やはりこの男は、勘が鋭く侮れない。アメリに最も近しい存在であるこの男に、幾度嫉妬したことだろう。
だが今、カイルはそれどころではかった。ヴァンの胸倉をより強く掴み、怒り狂う獣のごとく尖らせた瞳でヴァンを睨む。
「答えろ!」
「……リエーヌの商業通りの中ほどです」
返事を聞くなり、カイルはヴァンの胸倉から手を離した。勢い余って、ヴァンの体はバランスを崩し床に倒れ込みそうになる。
「ヴァンさんっ、大丈夫ですかっ!?」
騒ぎを聞きつけここまで駆け付けた騎士達が、慌ててヴァンの体を背後から支えた。
(彼女を傷つける者は、一人残らず殺してやる)
怒りで、この身が引き裂かれそうだ。
爪先が皮膚に食い込むほど拳を握り締めると、カイルはアメリを求めてその場を駆け出した。
「俺も行く!」
背後から、カイルを追うヴァンの声がする。
「――お待ちくださいっ!」
すると、廊下を駆けるカイルの前に立ちはだかる者がいた。
聖職者の黒衣を身に付け、胸もとにロザリオを光らせたレイモンド司祭だ。
いつになく真剣な眼差しでカイルを睨むと、レイモンド司祭はぞっとするほどに落ち着いた声で問いかけた。
「どこに行かれるのですか?」
「どけろ。お前には関係ない」
「また、リエーヌの町で暴れるおつもりなのですか? おやめなさい。無差別に人を傷つけ、これ以上国王の評価を下げてはなりません。戦争前の、大事な時期だというのに」