獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
断固として道を譲ろうとしないレイモンド司祭を、カイルは凄んだ眼差しで睨みつけた。


そしておもむろに腰から剣を抜くと、レイモンド司祭の鼻先に迷いなく突き付ける。







「通さないと言うのなら、お前を伐って行くまでだ」


磨き上げられた鋭利な剣は、不気味な光沢を放っている。レイモンド司祭は「ひぃっ」と青ざめると、腰を抜かしその場に崩れた。


「なんてことをおっしゃるのです……! 私は、聖職者なのですよ! 聖職者を殺めたら、地獄に堕ちますよ!」


「地獄? そんなものを、悪魔の異名を持つ俺が怖がると思うか?」


嘲笑うように喉を鳴らすと、カイルはレイモンド司祭めがけて剣を勢いよく振り下ろす。ブンッと中空を伐った剣は、レイモンド司祭の顔の真横にある床に鈍い音をたてて刺さった。


「ひぃぃぃっ!」


ガタガタと震え、か細い泣き声を上げるレイモンド司祭。


(彼女を守れないのなら、地獄に堕ちた方がマシだ)


レイモンド司祭をその場に残すと、カイルは剣を手に再び駆け出した。









もともと、カイルにとってこの世界はどこもかしこも地獄だった。


アメリは、その地獄の世界に突如射した一筋の光だった。


エメラルドグリーンの、優しく穏やかな瞳。


絹のように滑らかで、甘い芳香を漂わせる黒髪。


カイルの全てを包み込み、許しを与えてくれた細く滑らかな指先。






『俺は……』


回廊を全速力で駆け抜けながら、カイルは昨夜アメリに言いかけた台詞を思い出す。


夜の大聖堂で、膝間付きカイルを見上げたアメリの澄んだ瞳が脳裏を過り、胸が焼けつくように苦しくなった。














――『俺は、お前のためなら何にでもなれる』




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