獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
「カイル殿下、ヴァンさん! 俺達も行かせてください!」


城の門を抜け石造りの跳ね橋をヴァンとともに馬で駆けていると、後ろから蹄の音を響かせ追いかけてくる者がいた。


「俺達も、アメリさんを助けたいんです!」


騎士の、カールとブランだ。王の間の前に駆け付けた騎士達の中に彼らの顔もあったから、カイルとヴァンのやり取りを耳にしたのだろう。


「好きにしろ」


彼らもアメリを特別視していることに軽い苛立ちを覚えつつも、カイルは抵抗はしなかった。


彼女を確実に救い出すには、一人でも多い方がいいと思ったからだ。常に単独で行動をしてきたカイルにとって、初めての感覚だった。






四人の乗った馬は各々街道を抜けると、シルビエ広場を折れ、商業通りに入って行った。


アメリが連れ去られたという粉引き屋の前で、カイルは手綱を引く。


馬に跨った三人の騎士とカイルを見て、町行く人々は皆何事かと足を止めた。


「フィリックス様、どうしたのですか? そんな、騎士のような恰好をして」


カイルに気づいた町人たちが、不可思議そうに聞いてきた。カイルはフィリックスとして町に繰り出す時は、いつも商人の装いをしているからだ。


「フィリックス? 違う、この方は――」


横から言葉を挟もうとしたヴァンを、カイルは黙って腕で制した。


そんなことは、今はどうでもいい。カイルの目的は、アメリだけだ。


「この中に、悪獅子に女が連れさられるところを見た者はいるか?」


カイルの問いかけに、その場にいた初老の男が声を上げる。

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