獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
扉の向こうから、男がのそりと入ってくる。


ドーソン男爵より背は高く胸板も厚いが、日に焼けた動物的な顔はよく似ていた。ドーソン男爵は四十代と思われる見かけだが、彼は三十歳前後といったところだ。


おそらく、彼がドーソン男爵の弟なのだろう。
腕を組み、ふてぶてしい表情でアメリを見下ろしている。


アメリは、きつく二人を睨んだ。


「どうして、カイル様のフリなどをするのですか」


「この国のためだよ」


瞳を三日月型に細め、ドーソン男爵は飄々と答えた。


「三年前、あの王太子にひどい怪我を負わされたことがある。あんな凶暴な男は、この国の王になるべきではない。そのことを分かり易く国民に知らせるために、王太子の代わりに悪事を働いているのだ」


(もっともらしい言い方をしてるけど、ただの私怨じゃない)


アメリには、事の真相が手に取るように分かった。カイルは、理不尽な暴力をふるうような男ではない。詳細は分からないが、悪いのはドーソン男爵の方なのだろう。そして復讐のためにカイルのフリをして、人々にカイルの悪い印象を与え続けた。






「だから、まだバレるわけにはいかないのだよ。口封じのために、君には一生ここにいてもらう」


ドーソン男爵は不気味な笑みを浮かべると、よりアメリに近づいた。そしてソファーに横たわったままのアメリの顔を覗き込むように、背を屈める。


アメリの背筋が、ぞくりと震えた。ドーソン男爵のその声に、アメリを絶対に逃がさないという信念を感じたからだ。


「美しく生まれたことに、感謝したまえ。君ではなかったら、殺していたところだ。私はミハエルのところで君を一目見た時から、機会があれば愛妾にしてやろうとずっと考えていたのだよ。だから、殺すどころか存分に可愛がってあげよう」





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