獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
「……はっ、馬鹿げたことを」


すると、ドーソン男爵がソファーに転がるアメリの体を無理やり起こした。ドーソン男爵の膝の上に座らせられるような形で、アメリは体を固定され喉に短剣をかざされる。


「三人とも、剣を捨てろ……! さもなくば、この女の喉を掻っ切るぞ」


ドーソン男爵の毒々しい叫びに、場に凍てつくような緊張が走る。


カールとブランは顔を見合わすと、悔しそうな面持ちで剣を床に放った。遅れて、鎧兜の男もゆっくりと屈むと剣を絨毯の上に置く。


三本の剣を、ガスパーがすかさず拾い上げて行った。





「ははは、この国の王太子は愚鈍だな。殺されに来たようなものじゃないか」


アメリの背後で、ドーソン男爵が体を小刻みに震わせながらさもおかしそうに笑った。


「ガスパー、三人とも殺せ。厄介者の王太子が死んだところで、誰も嘆きはしないだろう。むしろ国中に感謝されるかもしれない」


兄の要求に、さすがのガスパーも戸惑っているようだった。剣を構えたまま、丸腰の三人に困惑の表情を向けている。


「ガスパー、お前は黙って私の言うことを聞いていればいいんだ! さっさと殺せ!」


天井がひっくり返りそうなほどのドーソン男爵の叫びに、ガスパーはびくっと肩を揺らす。そしてその声の勢いに誘われるように顔から困惑の色を消すと、剣の切っ先を鎧兜の男に真っ直ぐ向ける。





「……ダメよ! やめてっ!」


喉に短剣を突き立てられたまま、アメリは悲痛な声を上げた。


すると鎧兜の男はちらりと上を見上げ、


「アメリ様。出来る限り頭を下げてください」


馴れ親しんだ声で、そう告げたのだった。



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