獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
アメリを軽々と横抱きにしたカイルは、部屋を出て廊下を突き進む。
負担をかけたくなくて、アメリは無意識のうちにカイルの首に腕を回していた。
そんなアメリをより掻き抱きくように、カイルは腕の角度を変える。
ガラスで体のあちこちを負傷しているカイルは、血の匂いがした。飢えた獣の匂いは温もりと相まって、アメリにこの世のものとは思えないほどの安らぎを与えてくれる。
金で隅々まで装飾した扉を開けて外に出れば、ヴァン達の姿はもうなかった。カイルは一頭だけ残された白馬にアメリを乗せ、胸に抱くようにして手綱を握る。
二人を乗せた白馬は、若草色の草原が広がるリエーヌの郊外を駆け抜けた。
肌を撫でる風が、心地よい。
凪ぐ風が、襟足まで伸びたカイルの金糸雀色の髪を揺らす。どこまでも遠くを見つめる澄んだ天色の瞳は、吸い込まれそうなほどに美しい。
「カイル様、どこに行かれるのですか……?」
馬を疾走させるカイルに見惚れながらアメリが問えば、カイルはちらりとだけ彼女を見て
「ともに、城へ」
一言、そう告げた。
甘い色香と温もりを秘めたその簡潔な返答に、アメリの胸が熱くなる。
「はい……」
目を閉じそっとカイルの胸に頭を預ければ、その想いに応えるかのようにカイルはアメリを抱く腕に力を込めた。