獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
そんなアメリに気づいた周りの人々も、口々に噂しはじめた。


「アメリ様、ずっとお一人だわ。おかわいそう」


「でも、カイル殿下は夜会嫌いで有名じゃない。だって、今まで一度もお姿をお見せになったことがないんでしょ?」


「今日は、もうお休みになられているのではないかしら」






扇子越しにヒソヒソ声が耳に届き、アメリは意気消沈するのだった。


「アメリ様」


すると、アメリの前に膝間付く者がいる。


騎士の、ブランだった。癖がかった黒髪の中で、幼さの残る瞳がアメリを悪戯っぽく見上げている。


「アメリ様。どうか、俺と踊ってくださいませんか?」


「でも……」


「カイル殿下は、今日はもうお見えにならないでしょう。これは俺にとって、アメリ様と踊れる千載一遇のチャンスです。見つかったら殺されるけど、見つからなければいい」


にこっと微笑むブランの顔を、アメリは複雑な気持ちで見つめていた。


(そうね。もういらっしゃらないのなら……)


ズキズキとした胸の痛みを感じながら、アメリは差し出されたブランの手を取ろうとした。
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