獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
「金色の髪を持つカイル殿下の死と、この国の滅亡は、はるか昔から決まっているようなものです。決して、逆らうことは出来ない。カイル殿下が戦場に出たことで、ついに運命が動き出したのでしょう」


震えながら語るレイモンド司祭は、カイルの死を確信しているようだった。


ロイセン城に来てから、アメリは学んだことがある。この辺りの国は、昔は占術で政を決めていたらしい。彼らにとって、予言や占いは絶対的なものなのだ。






アメリは立ち上がると、レイモンド司祭を見上げた。


「レイモンド様。私は、運命などは信じません。自らの手で、切り開くものだと思っております」


レイモンド司祭は、みるみる目を見開いた。


「なんと、無礼な。その発言は、神への冒涜に値する」


「無礼でも、構いません。もしも予言の書が真実で、運命通りに事が運んだとしても……」


アメリは、目を閉じた。瞼の裏に浮かんだのは、どこまでも澄んだカイルの天色の瞳だった。


「私が、変えてみせます」









確固たる意志を漲らせたエメラルドグリーンの瞳に、レイモンド司祭の視線が釘付けになる。


やがてレイモンド司祭はふっと口もとを緩めると、いつもの柔和な笑みを浮かべた。


「左様ですか……。あなたは、お強い。さすが、あのカイル殿下が選ばれた女性だ」


レイモンド司祭の胸もとで、中心にガラス玉の埋め込まれたロザリオが揺れている。


青紫に近いその色は、確か”帝王紫”だ。帝王紫も調合が難しいのだと、昔母が寝話に語っていたことをアメリは思い出す。染料となる実が、滅多に摂れないからだ。


「あなたには、敵いませんね。あなたは、この国の運命さえをも変えてしまうのかもしれない」


レイモンド司祭は微笑を浮かべたままアメリを見つめると、横を通り過ぎる。そして、祭壇の前で膝を付くと祈りを捧げた。


「私は聖職者として、ひたすら神に祈りましょう。この国が、正しい道を歩めるように」
< 159 / 197 >

この作品をシェア

pagetop