獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
秋が深まり、ロイセン城の中庭の木々が色づきはじめた。くすんだ水色の空は、冬の訪れを予感させる。


けれども待てども、騎士団が帰って来る気配はなかった。王は苛立ちを露わにし、城の者たちの中にも諦めの言葉をはっきりと口にする者が現れるようになった。


満月にほど近い、ある夜のことだった。


その日もアメリは寝付けれず、自室のベッドに座りアーチ窓の向こうの空を見つめていた。


騎士団がロイセン城を発って、四十日が経つ。


カイルのいない城での毎日は、生きた心地がしない。笑っていても、心はいつも空虚だ。


(もしや、やはり……)


考えてはいけない考えが、ついにアメリの脳裏をかすめた。






その時だった。深夜だというのに扉の向こうから騒々しい足音が聞こえ、何かあったのかしらと、アメリは一層の不安に苛まれる。


――バンッ!


ノックもなく乱暴に扉が開かれ、アメリは怯えながら顔を上げた。


けれども、扉の向こうを見るなり瞳から大粒の涙を流す。


甲冑を身に付けたカイルが、息を切らしながらアメリを見ていたからだ。








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