獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
突然の国王の崩御に、城の中は混乱していた。クロスフィールドでの大勝利の喜びが、あっという間に皆の心から消失してしまったほどに。


王は妃を亡くしてから心を病んではいたものの、体は健康そのものだった。大病を患ったことはなく、腰痛以外の持病もない。


それにしてはあまりにも急すぎる死に、誰しもが毒物の混入を疑った。王は朝食を完食した直後から、体調不良を訴えていたからだ。


けれども確かめる術はなく、毒物にしては亡くなるまでの時間が急すぎると王医が訴えたことで、事態はますます混乱を招いた。


王は朝食である野菜のブイヨンスープとパンをたいらげてから、わずか三時間後に息を引き取っているのだ。王医の知る範囲では、それほどまでに早急に効果の表れる毒薬はこの国には存在しないのだと言う。







だが、その言い分に異論を唱える意外な人物がいた。


ヴァンだ。


ヴァンは王が亡くなる時の様子を人伝いに聞きつけ、神妙な顔で王医に自分の意見を述べに行ったという。


「白目が消えるほどの目の充血に、両腕に見られる紫色の発疹。これはおそらく、猛毒ゼロノスです」


ヴァン曰く、ゼロノスはハイデル公国ではよく用いられる猛毒らしく、公国の奥地にあるサランの森に生える樹枝の種から抽出されるのだという。


かつてはハイデル公国の子爵家の長男だったヴァンには、父親が宰相を毒殺した罪で投獄された過去がある。その際に父親が使用したと疑われた猛毒こそが、ゼロノスだったのだ。


ヴァンの見解を受けて資料を確認した王医は、王の命を奪った猛毒がゼロノスであることを確信した。そして、血相を変えてこの国の幹部たちに報告した。


城の中に、ハイデル公国の間者が紛れ込んでいる可能性があると。


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