獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
王の葬儀は粛々と行われたが、間者の行方はいまだ不明で、城は不穏な空気に包まれている。けれどもいつまでも王位を空白にしておくわけにはいかず、順当にいって第一継承者であるカイルの王位継承が決定した。


そして戦略通りクロスフィールドを打ち破った騎士団が、国境越えのためラオネスクに出兵する前に、取り急ぎ戴冠式が行われることとなったのである。





カイルの戴冠式は、夜会の行われる宴の間で、国の幹部と騎士団の上層部のみを招いて厳かに執り行われた。


国のシンボルである獅子の彫刻の彫り込まれた金造りの天井の真下で、朱色のローブを纏ったカイルは、国の最高司祭から黄金色の月桂冠を戴冠される。


月桂冠とは、ロイセン王朝を打ち立てた初代の王が、夢の中で女神に月桂樹の葉で編んだ冠を授けられたという伝説にちなんで代々伝えられてきたものだ。


前王の不可解な死に、まことしやかに囁かれる王城内の間者の噂もあって、会場内は重苦しい雰囲気に包まれていた。


けれども鋭い碧眼で前を見据え、ロイセン王朝の由緒正しき血筋を思わせる気品に溢れたオーラを漂わせるカイルの姿は、重厚な絵画から抜け出たかのように美しく芸術的だった。


あまりの神々しさに、カイルの婚約者として最前列でその様子を見守っていたアメリは、しばらくの間息をするのを忘れるほどだった。






戴冠ののち、最高司祭が聖油でカイルの両掌と額を清めると、会場内にはまばらな拍手が響き渡る。


不穏な空気の中、ここにロイセン王朝の第二十七代目となる若き王が誕生した。









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