獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
王太子は、何も言わずに二人の前まで降りて来た。
藍色の服には、肩と胸もとだけを防御する簡易的な鎧を身に付けている。下半身は、漆黒の細身のズボンに同じ色のロングブーツという出で立ちだった。銀色の剣が、腰で妖しく光っている。
訓練中でもないのに鎧兜を被っているのは、改めて見れば異様な光景だ。
(この人は、どうしていつも鎧兜を被っているの? それほど、ご自分の顔に自信がないのかしら)
王太子の姿を瞳に映しながらアメリが素朴な疑問を抱いていると、同様にアメリを凝視していた王太子が口を開いた。
「お前、まだいたのか」
婚約者にかける言葉とは、到底思えない。負けるものか、とアメリは笑顔を作った。
「はい、殿下。おかげさまで、有意義な毎日を過ごさせていただいています」
意表を突かれたかのように、鎧兜の王太子は押し黙る。
「有意義な毎日だと? あの部屋は、窮屈ではないのか?」
「はい。こじんまりとして、とても落ちつく広さにございます」
「掃除は? 苦痛ではないのか?」
「掃除は、子供の頃より大好きでございます」
飄々としたアメリの返答に、再び王太子は口を閉ざした。
苛立っている気配が、鎧兜越しに伝わって来る。
「……お前、聞いていないのか?」
「何のことでございますか?」
「俺に関する噂だ」
アメリは、一瞬ドキリとした。アメリの変化を見過ごさなかったカイルが、鉄兜の向こうでクスリと笑う。
「知っていて、婚約を受けたのか。愚かな女だ」
伸びて来たカイルの指が、アメリの顎先をつかむ。
「俺に情けはない。他の男と同等に考えるな。平気で、女を傷つけることも出来る」
藍色の服には、肩と胸もとだけを防御する簡易的な鎧を身に付けている。下半身は、漆黒の細身のズボンに同じ色のロングブーツという出で立ちだった。銀色の剣が、腰で妖しく光っている。
訓練中でもないのに鎧兜を被っているのは、改めて見れば異様な光景だ。
(この人は、どうしていつも鎧兜を被っているの? それほど、ご自分の顔に自信がないのかしら)
王太子の姿を瞳に映しながらアメリが素朴な疑問を抱いていると、同様にアメリを凝視していた王太子が口を開いた。
「お前、まだいたのか」
婚約者にかける言葉とは、到底思えない。負けるものか、とアメリは笑顔を作った。
「はい、殿下。おかげさまで、有意義な毎日を過ごさせていただいています」
意表を突かれたかのように、鎧兜の王太子は押し黙る。
「有意義な毎日だと? あの部屋は、窮屈ではないのか?」
「はい。こじんまりとして、とても落ちつく広さにございます」
「掃除は? 苦痛ではないのか?」
「掃除は、子供の頃より大好きでございます」
飄々としたアメリの返答に、再び王太子は口を閉ざした。
苛立っている気配が、鎧兜越しに伝わって来る。
「……お前、聞いていないのか?」
「何のことでございますか?」
「俺に関する噂だ」
アメリは、一瞬ドキリとした。アメリの変化を見過ごさなかったカイルが、鉄兜の向こうでクスリと笑う。
「知っていて、婚約を受けたのか。愚かな女だ」
伸びて来たカイルの指が、アメリの顎先をつかむ。
「俺に情けはない。他の男と同等に考えるな。平気で、女を傷つけることも出来る」